俳優の「公開の孤独」「プライベートモーメント」とは、何を生み出すのか?

俳優の「公開の孤独」「プライベートモーメント」とは、何を生み出すのか?

こんにちは、アクティングコーチ・演技トレーナーの山縣です。
演技のことは言葉だけで伝えることの難しさは重々理解しているところですが、少しでも演技初心者の方や、久しぶりに俳優業を再開する方などに役立ててもらえたらと考えています。

私のモットーとしては、ブレることはありません。
「日本の俳優のレベルを底上げする」
「演技ツールを一般の方に解放し人生に生かしてもらう」

さて、今回は「プライベートモーメント」について。
または、「公開の孤独」「公(おおやけ)の孤独」「公衆の孤独」などと言われています。
言ってしまえば、公衆の面前で孤独でいること、を伝えています。

つまり「公衆の面前でとても個人的な時間を過ごす」こと。
なんだかすごいですよね?

この演技トレーニングは、どんなことを意味するのか?
俳優にとってどのような創造性を生み出すのか。
言葉だけで説明は難しいことですが、触れてみたいと思います。

私は20代から演技トレーニングを日々繰り返し、本番の演技に還元しながらトライ&エラーを繰り返し、演出家としても俳優に還元していくことで、実践に繋げていける視点を持つことができました。
演技トレーニングの鬼ではなく、実践に繋げることこそ大切にしています。

実践に生かせていない俳優もいますが、実践に繋げるその視点で、お伝えしていきたいと思います。

コンスタンチン・スタニスラフスキーが発見した観客の注目

このプライベートモーメントを紐解くにあたって、リアリズムの演技の素となったスタニスラフスキーの次のような発見からみていきたいと思います。
以下、引用を示します。

俳優が関心を持とうとすればするほど、観客は彼らに惹きつけられなくなる。
こんな出来事があった。
仮面舞台会のパーティで、自分に注目してもたいたいと努力して動き回る仮面の中に、黒いドミノ仮装衣を着た二人のマスクの人物がやってきた。この二人はビジネスマンで、このパーティのチャンスを逃すまいとここに現れ、周囲の群衆への興味はわずかで、自分たちの仕事の話をしていたのだった。じきにこのマスクの二人は周囲の注意を惹きつけ。注目の的になった。

モスクワ芸術座の新人俳優に向けたスタニスラフスキーの談話(第一回)

どうでしょうか。
ここで何が起きたのか、想像できましたでしょうか。
このスタニスラフスキーの観察は、多くを物語っていました。

これを言い換えると、公の中で、公衆の面前で、この注目の的となったマスクの二人は、とてもプライベートな二人の時間を過ごしていた、ということなのです。

プライベートモーメント(公開の孤独)の演技トレーニングとは?

上記のことを俳優は、ごく自然に舞台上でカメラ前でやる必要があった。
それではどうすれば、それを体験できるのか?
こうして生まれたのが、プライベートモーメント(公開の孤独)の演技トレーニングなのです。

ある人は、これを「注意の輪」「光の輪」「スポットライトの輪」なんて言い方をしています。
しかしながら、プライベートモーメント(公開の孤独)を言い表すには不十分に私は感じています。

多くの俳優は、実は観客からの視線や批評家からの視線、監督や演出家からの視線、投資家からの視線に、さらされているのです。
そのため自分の力を発揮することがうまくできず苦しんでいて、それは現在の俳優にも通じています。
ましてや、演技の方法を知らない人にとっては、気合でなんとかしようなんて思うほど、逆効果なことを平気でしてしまっているのです。

公開の孤独を、生み出し訓練してくためにさらに発展させた演技トレーニングが、リー・ストラスバーグが生み出した「プライベートモーメント」という演技トレーニングなのです。

リー・ストラスバーグが発展させた演技トレーニング

リー・ストラスバーグはスタニスラフスキーの公開の孤独からさらに発展させていきました。
俳優が公の中にあって、自分でいられなければならないとはどういうことなのか?と。

人生で1番自分でいられる時(プライベート)とは、どのような時なのかと。
私が私でいられる場所・・・自分の部屋ではないかと。
そして、センソリー(五感の記憶)を使って自分の部屋を生み出し、公開された中で、自分の時間を過ごてみることを実践したのです。

五感の記憶(センソリー)については下記の記事をご参照ください。

プライベートモーメント(公開の孤独)は「ひとりでいる感覚」

文字通り「ひとりでいる感覚」を手にいれることを目指しています。
ひとりでいる感覚ってどういうこと?

この演技トレーニングは、これまでにも紹介してきた、リラクゼーションと注意の集中の相関関係と、五感の記憶(センソリー)を掛け合わせたものと捉えていただけたらと思います。

舞台上、カメラ前では、我々は日常以上の凝縮された時間を過ごします。
そのため、日常以上にその世界にフォーカスした時間を過ごす必要があるのです。

ひとりでお部屋で過ごすように、人前でひとりで過ごす部屋を創造するのです。
あたなにとって自分が1番リラックスしていられる場所はどこですか?
多くの人が思い当たるのは、自分の部屋ではないでしょうか?

一人暮らしならまさに生活全てを担う自分の生活スペース全部。
家族と暮らしているのであれば、自分の部屋。
自分の部屋がないのであれば、家族が留守中のリビングなど。

プライベートモーメント(公開の孤独)の内容

想像で、自分のプライベートな部屋を創造していきます。
まずは部屋を歩いたり、しながら、どこに何があるのかを想像していきましょう。

ここにソファがあり、右手に窓があり、カーテン、目の前にはテレビ・・・カーペット、脱いだ服が置いてある、埃がすみっこにあるなぁ・・・などなど。
自分の部屋に注意の集中を向けていきます。

考えるよりも、五感の記憶(センソリー)を使って、肌感覚で想像のモノに触れたりしていきます。

そして、日常のように部屋でやらなければならいことに集中したり、トイレに行ったり、お風呂に入ったりしてみましょう。

ポイントは、完璧主義にならないこと。
自分のことを客観視せず、「ああ、ここがいつもの部屋だなぁ」と感じていけること。
空間的な感覚だけで、すーっと入れるようになることが理想だったり、ソファを想像で生み出し体験できるだけで、最終的には「ひとりでいる感覚」になれれば素晴らしいことです。

ぜひ、試してみてください。
ちゃんとできたかなぁ、うまくいっているかなぁ、などと考えないこと、つまり自分でジャッジをしないこと。

アクティングコーチと他の俳優たちの前でトレーニングしていくことが当然ながら課題ですが、まずはひとりで部屋で過ごすことを体験しなおして、日常から発見していくことも大切ですね。

映画のシーンから見る、プライベートモーメント(公開の孤独)

このプライベートモーメントがうまくいくと、公開の孤独の中で、人前でお風呂に入るために裸になったり、シャワーを浴びたり、またはトイレにいったりが自然と行えるようになっていきます。

ゲップをしたり、オナラをしたり、鼻をほじったりと自由です(笑)
そこまでできなくとも、そのような状態に向かいたいですよね。

以下映画を少しご紹介しますが、プライベートモーメントのトレーニングをしたかどうかは不明ですが、監督がプレイベートな空間を作り、そこに俳優がその意図を汲んでそのプライベートな世界を過ごしたということかもしれません。

映画「アイズ・ワイド・シャット」

言わずと知れた名監督スタンリー・キューブリックの遺作、映画「アイズ・ワイド・シャット」で、序盤に家族と過ごす部屋の中で、名優ニコール・キッドマンがトイレに座って普通に尿を出してトイレットペーパーで拭くまでの行動を、夫のトム・クルーズと対話しながら自然にやった空間はまさにこのような状態が起きている証拠。

私が最初にこれを観た時、覗き見た!といった衝撃がありました。

映画「アメリカン・ビューティ」

映画「アメリカン・ビューティ」での、名優ケビン・スペーシーのシャワーシーンなどもそうですね。

映画「トゥルー・ロマンス」※おまけ

ちなみに、若き日のブラッド・ピットは映画「トゥルー・ロマンス」で短いシーンですが、敢えてゲップをしていました。(少し、意識的な感じもあります)

舞台はさらにハードルが高く、モノローグの準備でも大いに生きるでしょう。

まとめ

このプライベートモーメント(公開の孤独)は、観客を忘れることではありません。
俳優は、観客がいることはどこかで知っています。

しかし、それを置いておいて、注意の集中を向けなければならいものに向けていくことで、その世界に没頭するのです。

それらを肌感覚からも準備しておいて、その世界で目的を持って行動すると、障害と出会ったことにより有機的な反応を生み出し、感情の解放や葛藤が大きなうねりとなり、素晴らしいアクティング(演技)が生まれるのです。

そして、観客や視聴者は、その世界に釘付けになってしまうのです。

俳優が役を生きて、その役としての私でいられること。
つまり、私(プライベート)でいられることを可能にしていく演技トレーニング。
それが、このプライベートモーメント(公開の孤独)なのです。

リラクゼーショントレーニングのレッスンと五感の記憶(センソリー)のレッスンと経て、このトレーニングをすると大きな収穫となるでしょう。

自分でいられること、私でいられる感覚というのは、ものすごい自信になりませんか。
演技トレーニングが、一般に生きるということは、そういったことでもあるのです。

最後に

ここまで読み進めてくださり、ありがとうございます。

もし、記事を読み終えて「頭ではわかったけれど、自分の場合はどうなんだろう?」と少しでも感じていらしたら、一度私と話をしてみませんか。

演技の技術、表現の壁、あるいは日常のコミュニケーション。 一人で考え込むよりも、対話(セッション)を通じて今の感覚を言葉にしてみることで、驚くほど道が開けることがあります。

月に10名様という限られた枠ではありますが、あなたとお話しできるのを心から楽しみにしています。