俳優が、感情を入れて、感情を込めて、台詞を言っても上手くいかない理由

俳優が、感情を入れて、感情を込めて、台詞を言っても上手くいかない理由

こんにちは、アクティングコーチ・演技トレーナーの山縣です。
演技のことは言葉だけで伝えることの難しさは重々理解しているところですが、少しでも演技初心者の方や、久しぶりに俳優業を再開する方などに役立ててもらえたらと考えています。

私のモットーとしては、ブレることはありません。
「日本の俳優のレベルを底上げする」
「演技ツールを一般の方に解放し人生に生かしてもらう」

さて、今回は改めて台詞を言うことについてです。
俳優ならば感情を込めて、あるいは感情を入れて、台詞を言わなければと思っているかと思います。
このマインドは先入観なのでしょうか、俳優育成業界の刷り込みでしょうか、一般的な認知となっているのですが、それが違うことがなかなか認知されない現実があります。

このブログでは何度も言います。

台詞は、感情を込めたり、感情を入れて言うのではありません。
感情は結果的に出ちゃったものです。

この理解をしてもらうには、もう一つ追加する必要があります。
役は成り切るものではありません。
役をあなたが生きるのです。

つまり、役を生きた結果、その役が感じたことが出ちゃうのが感情です。

俳優が心を込めても伝わらない原因とは

先日もとある現場でこんなお話しが出ました。

生徒さん

感情を込めたんですけど、出てましたでしょうか?

私は答えました。

アリツさん

いやぁ見えていないよ

その人にとっては一生懸命に台詞に気持ちを込めたのでしょう。
私は、その台詞ひとつに掛けた思いで何とかしようとしているように感じます。

台詞の準備をする際も、抑揚をつけて台詞を一生懸命言うのと同じです。

この状態は、台詞に捉われていて、「そう思おう、そう思おう」としていないでしょうか。
その場合に出てくるものは強張った表情か、或いは無表情に近いものなのです。

心体的にリラックスが起きておらず、且つ日常から本音を隠して生きているバリアがある状態のまま伝えようとしてるからです。

こちらについては過去の記事を参考にしてください。

俳優が気持ちを込めたのは結果を表現するため、それが既に間違いなのです

その場しのぎの俳優たち・・・。
そんな風に言うと、失礼に当たりますが、そのように立ち回っている人は少なくありません。

監督や演出家は、基本的に俳優にして欲しいことを求める人たちであり、それが仕事のひとつです。
そう見えて欲しいことを、つまり、その結果を直接口にして求められる場合が割とあります。

監督さん

「もっと大きく笑って」
「最後は強めに言ってみようか」
「あんまり反応しないで欲しいんだよ」
などなど。

それに対して俳優は瞬時に答えなければと必死にならざるを得ません。
あなたの演技は下記のようになっていませんか?

「もっと大きく笑って」と言われたら
→もっと笑顔でやろう、或いはもっと楽しいことを考えよう

「最後は強めに言ってみようか」
→最後は力強く台詞を言えばいいのか

「あんまり反応しないで欲しいんだよ」
→あんまり動かないように、表情も動かさないようにしよう

といった対応になりがちでしたら要注意です。
結果を求められて、結果を直接表現しようとしていませんか?
そして、瞬間的に「感情を込めよう」と考えていませんか?

ここには動機のない、その結果行動もない、形だけの演技が出てきただけになるのです。
リアリズムの演技、役を生きた演技を目指すのであれば、ぜひ気をつけたいとこですよね。

もし、今のあなたがそういうスタイルで演技をしていたのでしたら、演技方法を知らなかっただけに過ぎません。
これからいくらでも変えていけます。

俳優は行動した結果、障害にぶつかって出てくるのが感情なのです

結果を求められて、結果そのものを表現しようとすると「感情を込める」ようなことをしてしまいがちなのです。
俳優が見つめるべきポイントは、結果的にそうなるように動機や目的を調整すること。

今一度、役を生きるための、考えるべき4つのポイントを何度も思い出しましょう。

  1. 目的:相手に対してどうしたいのか?どうして欲しいのか?
  2. 動機:どうしてそうしたいのか?
  3. 障害:目的達成を邪魔するものは何か?
  4. 行動:どう行動すると目的を達成できるか(それはやってみないと分からない)

例えば、「もっと大きく笑って」と言われたら?

監督さん

「もっと大きく笑って」

生徒さん

(よし大声で笑おう)はははっははははっはは!

大きく笑うってそもそもどういう意味か不明ですが、そんなふうに注文をされることも多いにあります。

大きな声で笑うのか、それとも笑いが止まらなくなるようなことなのか、瞬時に質問する力もあると良いですね。

監督に質問するのが怖くて、聞けない人もいるかも知れません。
ここは対話力をつけて、最高のシーンにするために聞く能力をぜひ身につけて欲しいところ。

どちらかだと思いますが、ここでは「声が大きくなる原因は何にあるのか」といったところで考えてみましょう。

目的、動機、障害を探る

例えば、目的が「相手をバカにしたい」のなら声は大きくなるかもしれません。

「相手より自分を強いと思わせる」ために笑ったのでしたら、声は威嚇として大きく笑うかもしれません。

動機は反撃されないようにしたいから、立場が逆転すると困るから、かもしれません。

或いは、目的が「相手を笑わせる」だったとしたら、自ら声を大きく笑い出した方がお互い楽しくなるかもしれません。

或いは、相手との状況によりますが、目的が「楽しいんでいると思わせない」ために行動していたのに、相手の不意打ちで大きな笑いが自然に出てくるものかもしれません。

その目的の動機は、シーンの中や役の設定の中に隠されているでしょう。
また相手役との関わり合いの中で調整が必要になってくるでしょう。

あたなが、役の目的に向かって行動した結果、その道中の障害によって感情が出てくるのです。

俳優の目的と行動が素晴らしい結果となった映画「プリティウーマン」の1シーン

映画「プリティウーマン」をご存知でしょうか。

この映画で、主役のジュリア・ロバーツは大抜擢されて、一気にスターになりましたが、その原因は自然と湧き出てくる笑顔にあっといっても過言ではありません。

大金持ちのエドワード(リチャード・ギア)が、娼婦のヴィヴィアン(ジュリア・ロバーツ)と恋に落ちていく物語です。
娼婦であることや、地位や名誉があるということで既に、この恋の障害がお互いにあるのが分かると思います。

有名な1シーンで、ヴィヴィアンはエドワードが用意した着慣れない真っ赤な高級ドレスを着てエドワードの前に出てきます。
そしてエドワードが、ヴィヴィアンにまだ足りないものがあると言って、箱を開けてネックレスを見せるシーンがあります。

エドワードの目的は「ヴィヴィアンを喜ばせる」であり、一方ヴィヴィアンの目的は夢のような状態に対して「騙されないように警戒する」だったと想像してみてください。

実際のシーンでは、ヴィヴィアンがネックレスに手を伸ばした瞬間、エドワードは宝石箱をワニの口みたいにパカっと閉じます。
驚いたヴィヴィアンは、瞬時に手を引っ込めて、一瞬止まって、ゲラゲラと笑い出します。

この屈託のない素直な笑い声は、真実でした。
何と、この宝石箱を閉じるという行為はアドリブだったそうです

しかしながら、目的が「ヴィヴィアンを喜ばせる」ということから生まれたものであり、ズレていないからこそのこと。

また、警戒していたからこそ、そのギャップにヴィヴィアンが大笑いをしてしまったのです。
つまり感情が出ちゃった、といった方が正しい言い方ですね。

上記のケースはアドリブでしたが、素晴らしい俳優は、そうなるように準備して目的に向かって行動することを知っておいてください。

大きく笑う、ということに関しても、結果だけで勝負したところで対応できないでしょう。
双方の目的が重なって、その化学反応から生まれるとシーンはさらに濃縮されて詰まったものにするのですね。

まとめ

世の中には、甘え上手な人がいますが、あなたの周りにはいますか?
目的と動機、障害を抱えているからこそ、自然に行動に移して、周りはまんまとその甘え上手に乗せられてしまう、なんてことがあるのではないでしょうか。

人間理解こそが俳優の仕事。
あなたの周りから、そういった目線で見ていくと大きな発見があるかもしれません。
甘え上手は自分の目的達成のために、自然なコースを通って相手を動かす力があります。

また、そんな風に自分の行動理由を見つけていくと、自分への理解が進んでいきます。

私にもまだ幼い子どもがいますが、一緒にスーパーへ行ったら私の子どもは私に「お菓子を買わせる」といった目的に向かいます笑。

その熱意は素晴らしく、目的へも真っ直ぐです。
動機は、甘いものが好きだし、おやつが食べたいから。
しかし、障害は私です。
パパはいつも買ってくれるとは限らないことを知っているから。

そこで目的達成のために出る行動が「お菓子コーナーをちょっと見たい、見るだけだから」と誘います。
そして、目ぼしいお菓子を触り「これ何?」と質問をぶつけてくるのです。
「お菓子を買わせる」というシーンの目的の中で、さらに細かくシーンを区切って(ビート)「興味を惹かせる」という目的が入っていきます笑。

私が「今日はやめとこうね、また今度ね」とでも言おうものなら
「見てるだけだから!」とキレてくるわけです。

目的に向かって必死だからこそ、それを悟られないようにも必死で、出てきた台詞は「見てるだけだから!」といった怒りの伴った返答。
それが、自然に出ちゃった感情です。

俳優は、このメカニズムを知って、準備していくのです。
まとめますと、そういうことなのです。

アリトさん

俳優はactorであり演技はactingなのです。
俳優は、行動する人であり、演技は行動すること。

決して理論的に頭で考えて埋めていくことではなく、役の4つのポイントを掴んだら、その目的に向かって行動してみてください。
すると自然なものが出てくるようになるでしょう。

そのためにも、注意の集中を鍛えながらリラクゼーションや、感応するレペテションなどのトレーニングが必要になってくるのです。

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