マイズナーテクニックのレペテションが、演技に有効な理由

マイズナーテクニックのレペテションが、演技に有効な理由

こんにちは、演技トレーナーの山縣です。
演技のことは言葉だけで伝えることの難しさは重々理解しているところですが、少しでも演技初心者の方や、久しぶりに俳優業を再開する方などに役立ててもらえたらと考えています。

私のモットーとしては、ブレることはありません。
「日本の俳優のレベルを底上げする」
「演技ツールを一般の方に解放し人生に生かしてもらう」

今回は、サンフォード・マイズナーが発案した演技トレーニング「レペテション」について言及します。
聞き慣れない方には、どういう意味?ってなる音ですよね。
英語で「repetition」で、意味は「繰り返し・反復」といった意味になります。
※レペティションと記載する場合もあります。

この演技トレーニングは、まさにその意味の通り、繰り返し続けるためのもの。
メソッド演技をかじったことのある方なら、聞いたことがあったり、既にどこかの講師のもとトレーニングしたことがあるかもしれません。

私がアクティングコーチ・演技トレーナーを務めるクラスでも、基本的にこのレペテションを行っています。

結論から先にお伝えしますが、このレペテションの効用・効果は瞬間瞬間の相手との感応にあります。他の指導者と同じく私もこのレペテションを重宝するのは、今その瞬間に相手と関わり、感応していくトレーニングだからです。

演技トレーニングのレペテションはどこから生まれたのか

ロシアのスタニスラフスキーが研究を重ね発案した、スタニスラフスキーシステムの演技方法(メソッドアクティング)は、アメリカの劇団グループシアターの中でも活発に議論され、そこからこのスタニスラフスキーシステムをさらに発展させていった歴史があります。

有名なのが、リー・ストラスバーグ、サンフォード・マイズナー、ステラ・アドラー、エリア・カザンです。

それぞれ、スタニスラフスキーシステムの解釈により枝分かれしていった状況ですが、その後サンフォード・マイズナーはネイバーフッド・プレイハウスを立ち上げ、このレペテションという演技トレーニングを生み出し、徹底的に俳優にさせていきました。
ここで育った俳優や監督も多くいます。

トレーニングをした後に、彼の著書「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」を読むと理解も深まり、かなり面白いですので、ぜひ読んでみてください。

この翻訳者にも名を連ねている「仲井真嘉子」さんも、このネイバーフッド・プレイハウスでサンフォード・マイズナーからの直接の指導を受けた貴重なひとりです。

教え子たちもその後あちらこちらでこのレペテションを指導しており、各アクティングコーチによって解釈の違いがあり、その指導がちょっとずつ違っているのが現状です。
また独自にさらに進化したレペテションを行う人もいます。

演技トレーニングのレペテションとはどんなもの?

これを言葉だけで伝えるのは、難しいところです。
文字通り、反復のトレーニングですが、ここでは簡単にそのベースをお伝えします。

  1. 2人1組で、相手と向き合います。
  2. 片方が最初に目に飛び込んできた相手のビヘイビア(behavior)をピックアップして伝えます。「あなたは、〇〇している」といった具合です。
  3. 言われた側は主語を置き換えますが同じ様に「私は〇〇している」と繰り返します。
  4. 以上②③を繰り返します。
  5. ②③をしながらも、どちらか変化した相手の別のビヘイビア(behavior)をピックアップして言葉を変えていきます。
    例:「あなたは、××している」となると相手も「私は、××している」と返して繰り返します。
  6. 以上、②③④⑤を繰り返していきます。

言葉に置き換えると分かりやすいですので、置き換えてみます。

生徒さんA

「あなたは、緊張している」

生徒さんB

「私は、緊張している」

生徒さんA

「あなたは、緊張している」

生徒さんB

「私は、緊張している」

生徒さんA

「あなたは、緊張している」

生徒さんB

「私は、緊張している」

生徒さんA

「あなたは、嫌がった」

生徒さんB

「私は、嫌がった」

生徒さんA

「あなたは、嫌がった」

生徒さんB

「あなたは、やらしい顔した」

生徒さんA

「私は、やらしい顔した」

といった具合です。
なんとなく、雰囲気が掴めたでしょうか。

最初はお互いの観察をするトレーニングから始めて、単語だけでレペテションをし、徐々に発展させていく流れです。
最初は座って行いますが、その後立って自由に動ける状態で最終的にレペテションをしていきます。

演技トレーニングのレペテションの効用・効果は?

このレペテションは、相手と感応するトレーニングなのです。
つまり、相手から出てくる言葉やその裏に乗っかっているPOV(主観・見解)を感じて、あなたが感じたことを瞬時に返していくこと、その永遠のループ。

言い換えれると、その瞬間瞬間に生きるためのトレーニングでもあります。
ここに思考は不要!
「これは何をしてるんだろう」「なんて言ったらいいんだろう」「このこと言っちゃいけないよな」「嫌われたら嫌だな」など考えることは置いていきましょう。
今相手に完全に注意の集中を向け、その瞬間瞬間に起きたことを衝動のまま返していくことが大切なのです。

観察のトレーニングから始めますが、言葉をリピートする上記記載のレペテションでは、観察し合うのではなく、お互いに関わり続け、感じたことを応酬しあっていくことになります。

あなたが、オープンナップしている状態で、相手と関わってレペテションしていけば、あなたの潜在意識に触れ始め、相手と感応しながら色々なものが出てくる可能性があります。
それこそが、深い感応の始まりであり、このレペテションの効用と効果、つまり感応する時間に他なりません。

瞬間瞬間に生きながらも、感じたことがどんどん混ざってくることで深い繋がり、深い関わりの中で対話していくことになります。
その中には嬉しいことも恥ずかしいことも辛いことも嫌なこともあるでしょう。

しかし、全てオープンに関わっていくゆくことで、隠すことなく自分を晒しながら衝動に従って行動していくことに繋がります。
それが「役を生きること」で、素晴らしい関係や連鎖が起こるきっかけになるのです。

ゼン・ヒラノ式、レペテショントレーニング

先ほど、お伝えしたレペテションは、サンフォード・マイズナーテクニックとなります。
私は、これともう一つ、レペテション方法を持っています。
それが、ゼン・ヒラノ式レペテショントレーニング。

日本語に置き換えた際に、マイズナーテクニックのレペテションは主語を置き換えることに最初はついつい思考を使ったりします。また、オープンナップができていないとレペテションがお互いにただの観察で終わりやすい部分もあり、ついつい相手に意図的にけしかけて反応を起こすといったことが起こりやすい場合があるのです。

講師によっては、俳優の衝動からではなく意図的にしかけたことを見抜けずに(或いは肯定し)、それを良しとしている場合もあるのです。

それらを排除する効果が、ゼン・ヒラノ式レペテショントレーニングにはあります。
ポイントはお互いに生まれて初めて見た相手、として感応していくこと。
主語をなくし、ビヘイビアだけをピックアップしリピートしていきます。
初めて見る感覚(新鮮に見るトレーニングでもあります)で、相手に遠慮なく相手のビヘイビアに言及しながら感応していくため、オープンナップができていれば芋づる式にさまざまな感情が出てきながら感応してゆけるレペテション。

私はこちらのレペテションも重宝しており、状況によって演技トレーナーとして使い分けをしています。
私たち日本人は、相手に感じたことを言うのが非常に苦手です。
童心に戻ったつもりで、目の前に初めて出会った人のことを遠慮なくピックアップして言える関係を築くことで、感応を豊かにしていく力があることをここに記しておきます。

ピックアップすることは、印象でも、態度でも、体のパーツでも、とにかくあなたが相手に対して気になったことにすることがポイントです。

レペテションは、シーンの中でどのように生きるのか?

レペテションは、インディペンデント・アクティビィティ(100%何かの達成に向かって行動する)をしながら、やっていくとさらに豊かな感応が始まります。

これはちょうど、相手が目的に向かって全力で行動しているからこそ、対話をしながら湧き上がっていく感情が自然に出てくるようにするためのトレーニングです。

シーンの中で、行動することで目的を達成する「今を生きる演技」は、さまざまな障害があります。その障害が会話だったり、自分に対する負の気持ちだったり、人だったりすることもしばしば。

そういったシーンの体験を、インディペンデント・アクティビィティがシーンと近い関係で感応をさせてくれます。シーンのような体験をレペテションがもたらせてくれるでしょう。

また必要なリラックスが伴っていない相手に対しても、深く関わりながら、感応していけるため、シーンに深みが増しますし、どんな相手でも感応していけるトレーニングになります。

感じてないのに反応することや、思ってもないのに台詞を言うことから離れていけるようになれば素晴らしいことです。

まとめ

インディペンデント・アクティビィティについては、また改めて言及したいと思います。
書き始めたら、キリがないほどにレペテションについてはありますが、書物や記述を読むよりも、その内容はレペテションの体験を先にした方が身に入るでしょう。

演技トレーニングにおいては、感応していくことを言葉で伝えていくことは机上の空論のように感じてしまう部分もあります。

言葉で伝わったかどうか心配ですが、ぜひ体験することをお勧めします。

私はこのレペテションが、直接的にダイレクトに相手と瞬間瞬間に繋がっていくために、とても有効なトレーニングだと実感しています。

また、俳優としても、その効果を実感すると共に、相手役との掛け合いを台詞でレペテションをすることで、どれほど役の準備に役立ったことか。

演出家としても、俳優同士が深く関わることを要求することに、どれほどこのレペテションが役立ったことか。

レペテションの効果や重要性を私は経験として身をもって、演者として演出としても体験しており、演技トレーナーとしても実感している次第です。

これをスタニスラフスキーシステムのスピンオフのように語る方もいますが、スタニスラフスキーシステムでも広げることのできなかった拡張ツールとして見ていければ、より深い関わりが演技に生まれてくるでしょう。

相手に注意の集中を向ければ、リラックスしていきますが、それだけではオープンナップに直結せず、あなたの心は簡単に閉じたりブレーキをかけていく可能性も大いにあります。

考えずに、目の前の相手と深く関わりながら、行動していけるように、ぜひ挑戦してください。
そして、素晴らしいアクティングコーチ、演技トレーナーとのレッスンがあなたの演技や日常を変えてくれるに違いありません。